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ホテルがパラ水泳選手にプールを開放する理由

練習場所の確保が困難な障がい者スポーツ選手

来年に控えた、東京2020オリンピック・パラリンピック。世界で初めて2回目のパラリンピックを開催する都市、東京では、大会を開催する都市として、障がい者スポーツの振興に力を入れていくと東京都オリンピック・パラリンピック準備局(および、公益社団法人東京都障害者スポーツ協会)は宣言しています。
しかし、パラリンピックを目指す選手にとって、練習場所の確保は難しい現状があることは否定できません。実際、障がい者のスポーツ参加における安全確保に関する調査研究では、障がい者のスポーツ施設利用において「介助者がいない」「安全確保ができない」などの理由で、利用をやむを得ず断ったことがあると答えた施設は少なくないといいます。また、障がい者は公共プールの利用やスポーツクラブの入会が難しく、特に知的がい害や視覚障がい者を受け入れる施設はほとんどないのが現状。東京2020オリンピック・パラリンピックを控え、障がい者スポーツの振興として金銭的な補助は増えたものの、こういった状況に関しては今も課題が残ります。

そんな中、リーガロイヤルホテル東京が、障がい者スポーツ選手の練習場所としてプールを提供するという、驚きの取り組みを始めました。

リーガロイヤルホテル東京が、パラリンピックの支援を始めた理由とは

リーガロイヤルホテル東京のプールは、25メートルが5レーンとることができ、ビート板などの用具や大きな更衣室にシャワールームなど設備が充実しています。
この恵まれた施設を、知的障がいや視覚障がいをもつ選手たちに提供する(有料)という取り組みが2019年6月より開始されました。リーガロイヤルホテル東京の会員や宿泊客に負担がない時期や時間帯で、多い時には週1回の頻度で提供しています。

この取り組みのキッカケは、障がいを持つ選手も利用出来るスポーツジムを運営し、自身も指導者である中里賢一さんが、水泳選手の練習場所の確保が難しい現状の打開策として、リーガロイヤルホテル東京副総支配人の杉山哲也さんに相談したことでした。

中里さんは当時のことを振り返り、次のように語っています。

私の知り合いにリーガロイヤルホテル東京のヘルスクラブ会員の方がいて、たまたまプールのビジター券を多数頂けたので、障がいのある水泳選手の練習場所として利用させて頂いていました。障がいがあるがゆえに民間のスポーツクラブや区の施設の利用が困難で練習場所の確保には大変困っていました。この素晴らしい施設を継続的に使用できないか、副総支配人である杉山さんに相談をさせていただきました。

 

【中里賢一さん】
 
ハンディキャップを持つ選手の練習場所として、プールが利用されていたことは全く知らなかったという杉山さん。自身も、パラリンピックを開催する国でありながら、障がい者スポーツの振興が追い付いていない現状に違和感があったそうです。自分のできることは支援したいと思い、出来る限り協力すると即答しました。

お話を聞いたとき、ぜひ私たちのホテルを使ってほしいと思いました。会員様以外に、プールを練習場として提供する取り組みは初めてでしたが、実際にパラアスリートの皆さんが練習場所の確保に大変困っているとお聞きして、この現状を社内や会員様にきちんとお伝えできれば、理解を得ることができると確信しました。会社にとっても、スタッフ一同で選手を応援できる素晴らしい取り組みであると社内を説得しました。

 
一方で、リーガロイヤルホテル東京の会員であり、障がい者の就職・キャリア形成支援を行う株式会社キャリアート代表取締役の中塚翔大さんにも、この取り組みについて意見を聞きました。

障がい者に関わる仕事をしている私個人としては、大賛成ですし、僕の周りの会員さんからも頑張ってほしいというポジティブな意見を聞いています。むしろパラリンピックがフォーカスされていない状況に疑問を抱いていた人も多かったように感じます。僕は仕事で、車いすバスケットボール日本代表チームのキャリアコンサルタントとしてキャリア形成の支援をしていますが、練習環境を整えることが難しいんです。そういった課題が、車いすバスケだけでなく、まだまだ知らないところでたくさんあると感じました。

 

【中塚翔大さん】
 

選手のファンができる継続的な取り組みにしたい

今回の取り組みにより、従業員、会員の方たちなど、多くの人たちがハンディキャップを持つ選手との接点を持つようになりました。そのことが、障がい者アスリートへの関心の向上につながっているといいます。実際に、ハンディキャップを持つ選手と、プールだけでなくロッカーやお風呂で話をしたことで、パラリンピックや選手に興味を持ち、応援するようになった方も多いそうです。この取り組みは、今のところ、パラリンピックの選考が決まる来年の春までのものであるが、それ以降についても杉山さんは前向きに語っています。

会員様以外がプールを利用することに対して、会員様が負担を感じないというのが前提ですが、今後も継続していきたいと考えています。障がいのある選手にとって、スポーツ施設を自由に使うこと自体がまだまだ困難な状況の中で、こういった取り組みをご理解いただけるよう、継続してお伝えしていきたいと思います。

 

【杉山哲也さん】

競技への興味だけではなく、選手個人を知ることが、スポーツを好きなるキッカケとなり得ると語る中里さんは、このように話してくれました。

障がい者が利用できる施設が増えてほしいのはもちろんですが、パラスポーツを応援していただくには選手を知ってもらうのが一番だと思っています。同じ施設を使っていてよく会う選手となれば応援にも熱が入ると思います。リーガロイヤルホテル東京では、選手が泳いでいると隣のコースから声援を頂くこともあり、とても励みになります。こうした取り組みから東京2020パラリンピックが盛り上がれば素晴らしいと思います。

 
中塚さんは、次のように続けています。

東京2020パラリンピックに向けて、選手個人ではなく、障がい者というカテゴリーに対してのサポートにフォーカスしすぎている企業が多いように感じます。その中で、選手個人個人に目を向けているこのような取り組みが、一過性で終わらないでほしいと願っています。リーガロイヤルホテル東京が起点に、“斬新な取り組み”が“当たり前”に代わって、その話を聞いた他のホテルに波及していくようになればいいと思います。

 

今、リーガロイヤルホテル東京を利用している選手たちも、東京2020パラリンピックを目指し、世界選手権出場に向けた練習に励んでいます。その中の一人には日本代表で内定に近い選手もいるそうです。この取り組みの輪が大きく広がり、パラリンピックを盛り上げるとともに、日本のダイバーシティの在り方についても考えるキッカケになるのではないでしょうか。

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