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イタリアサッカー連盟テクニカルマネージャー/シモーネ・ファビオ氏インタビューVol.2『イタリア若手育成の今』〜W杯出場を逃したイタリアが行う改革〜

2021年の夏にユーロ2020を制したイタリア代表。しかし同時に、2大会連続で今年の冬に行われるカタールW杯への参加を逃している。イタリアが参加できないW杯が2大会続くとは、誰が想像しただろうか。

失意の真っ只中にあるイタリアだが、サッカー界はポジティブな変化を迎えている。守備的に戦うスタイルから、ボールを保持し攻撃的に戦うスタイルへと変貌を遂げたのだ。代名詞だった「カテナチオ」のイタリア代表はもうそこにはない。

過去のスタイルを自ら壊し、新たな時代を再び築くために現在行っている新たな取り組みなどについて、イタリアサッカー連盟でテクニカルマネージャーを務めるシモーネ・ファビオ氏にインタビューを行った。

今回は、全2回にわたるインタビューの最終話となります。

生年月日:1991年9月1日(31歳)
出身地:イタリア

▶▶vol.1『カテナチオからの脱却』〜W杯出場を逃したイタリアが行う改革〜


–あなたたちイタリア人は、サッカーをどのようなスポーツだと考えていますか?

イタリアサッカーは他の欧州諸国に比べ、戦略と戦術に対する独自のアイディアがあります。
セリエAのチームやイタリア人の監督はピッチ上で、より細かなことまで気を配りますね。特に選手の配置や動き方、タイミングを重要視しています。
「どのようにチームとして振る舞うか」ということについて、どのクラブも哲学を持っているのです。

国全体にこのような傾向があるからこそ、ポジショニングや体の向き、グループでの守備方法、ゲームの進め方、について口酸っぱく伝えるのです。
どのゾーンをカバーすべきか、相手の守備網を攻略するためには、といったことはとても重要です。

監督から与えられた宿題をやり遂げるタイプの選手が多いとも言えるでしょうね。
高いレベルでプレーするには、自分のゾーンをカバーしなければいけませんし、監督の意向に合わせたプレーをする必要があります。

しかしそれと同時に私たちには、独創性にあふれ、相手の裏をかく選手も輩出していますよね。それは、戦術的に組織化されたチームと対峙する機会が多いからです。

そういったチームと対戦するには、各選手が相手の守備網を壊すための方法を、監督の指示とは別に試行錯誤を行っているのです。

強いチームを作るには、規律と独創性の両方をバランスよく取り入れることが大切です。どちらに偏っていてもいけません。

現代サッカーは、攻撃も守備も同時に行われるようになりました。
その中で良い結果を出すためには、戦術理解が必要不可欠です。
ピッチ上でチームを機能させるために、しっかりとした戦術知識を、若手選手たちに教える必要があると考えています。

 

–シモーネさんは、若手選手の育成に携わっていますよね。若手育成において、一番重要なことは何だと思いますか?

若手育成で一番重要なのは「選手の学び」を観察することです。

選手のパフォーマンスを観察することではありません。履き違えないでください、選手たちのパフォーマンスを観察することは当たり前です。パフォーマンスは簡単に目に見えますが、そこに気を取られてはいけません。目の前の選手が、学んでいるかを注意深く観察してください。

技術アップやモチベーションを保つために苦労したこと、成長するまでに経験したこと、年齢による生物学的な変化や感情の動きなど、挙げたらキリがありません。「目の前の選手のパフォーマンスの内側に何があるのか」を指導者が見つけ、育ててあげる必要があるのです。この子は学ぶことができるのかを、よく観察してあげてください。

選手の成長に不可欠なのは、時間をかけてより多くの伸び代を作ることです。
一人ひとりしっかりと分析し、日々改善を行うのです。

 

–「才能の見つけ方」を教えてください。

まず、成長というものは一直線ではないことを前提に話をしますね。

誰しも、良い時と悪い時があります。そのどちらの時間でも、選手は経験から多くのことを学びます。学びにはレールは敷かれていないのです。今日は1歩、明日は2歩、その次の日は3歩といったように成長できたら素晴らしいですが、現実はそう甘くないですよね。

飛躍的に成長する日もあれば、少ししか成長しない日もありますし、逆に何をやってもうまくいかない日もあります。1日1日が違う日なのです。

ただ時間と共に、経験したことがうまく掛け合わされれば、選手は必ず成長します。このことを頭に入れて選手と向き合わなくてはいけません。

それぞれの選手に、成長のペースがあります。
なのでトレーニング中や試合中には、選手がどれだけ学べているかに注目してください。多くの若い選手は、まだ目に見える形では発揮されておらず、隠れているものが多くありますから。

私たち育成年代の指導者の仕事は、才能を発揮できずにいる選手のその原因を探すことです。選手の内部に隠れているものを見つけてあげるのです。選手の中に隠されているものがあればあるほど、その選手はたくさん学ぶことができます。それらを引き出すことで、才能を開花させられますね。

選手の成長に、自分がどのように介入するかを考えなければいけませんね。
自発的にプレーさせることと、こちらが選手を導くバランスが鍵になります。

どちらに偏りすぎてもいけません。選手たちには自由に経験をさせながらヒントを与え、導きます。それには、学校のように細かく教える必要はありませんし、厳しくする必要も無いのです。

サッカーは、さまざまな状況によってプレーを変えなければならないスポーツです。選手は「どんな状況にでも適応できる力」を身につける必要があるのです。

 

–現在イタリアでは、どのような若手選手の育成を行っていますか?

「自分の才能を自由に表現できる」ことを一番に重視した育成を行っています。
選手のアウトプットを制限せず、ある程度の自由を与え、才能が花開くかを見守るのです。

全ての選手が何かしらの才能を持っていると私たちは考えています。
指導者の役割は、選手自身が持つ才能に気づかせ、能力が向上する手助けをしていくことです。

選手たちが、自由にプレーできている感覚を得ることが大切です。
そして、チャンスを与え彼らの能力を試します。その際には、選手がミスを恐れないよう細心の注意を払う必要がありますね。
チャレンジすることでしか能力は磨かれません。

私たち指導者は、選手が思い切ったプレーができるよう、チャレンジできる環境を作ってあげる必要があるのです。

 

–サッカーの才能以外に、イタリア人がサッカーにおいて大切にしているものはありますか?

私たちイタリア人はサッカーというスポーツを、情熱や愛を仲間と共有するものだと考えています。レストランやバーでは、常にサッカーの試合が流れていますし、日常会話はサッカーの話しがなければ成立しないほどです。

イタリアでは人々の生活の一部、それがサッカーなのです。イタリアには、皆でサッカーを楽しむ文化があります。それがプロフェッショナリズムを作っているとも言えますね。

どのクラブも選手に対して「情熱を持ってプレーすること」「チームメイトの大切さ」「チームの中で自分を生かす方法」に時間をかけて教えています。その環境の中で、全ての選手がチームに必要なことや、一人の選手が皆にとって価値のある選手である、ことを各が理解していくのです。

試合中には、良い事も悪い事も起こります。その時のためにチームがあるのです。
チーム全員でゲームを作り上げなければいけません。

これらは教わるというよりも、日々サッカーと生きていく中で、刻まれていくものです。
昔のイタリアは小国の集まりでした。多くの戦いがあり、領土を勝ち取ってきた歴史があります。

戦いでは、皆が協力しないと勝てませんよね。なので私たちは、勝つために皆で協力して戦う術を遺伝子レベルで理解しているのではないでしょうか。

 

–現在、イタリアが国を挙げて行なっているプロジェクトがあれば教えてください。

イタリアサッカー連盟は数年前に「エボリューションプログラム」というプロジェクトを立ち上げました。
それは、イタリア中に混在する全ての地域のサッカー連盟が、担当地域の選手育成を分担するプロジェクトです。

私が働いているサッカー連盟は、毎週月曜日にU13、U14の選手を地域クラブから選抜してトレーニングを行っています。
それぞれの地域の中から優れた選手を選抜し、トレーニングを行うのです。

そこでのトレーニングを、それぞれのチームに戻った時に活かしてもらいます。
他のクラブの選手とトレーニングすることや、イタリアサッカー連盟の指導者から指導を受けることで、自分が所属するチームを活性化することにつながります。

それぞれの地域にて、サッカー連盟以外が行う選手の育成プロジェクトもあります。そしてサッカー連盟の技術責任者がクラブに出向き、トレーニングを行うこともあるのです。

あなたたち日本が試行錯誤しているように、私たちイタリアもさまざまな取り組みを試しているところですよ。

End(お読みいただきありがとうございました。完 )

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