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スポーツ心理学者 / ガブリエラ・ベアトリス 実戦!ゴールキーパークリニック スポーツ心理学編 vol.2『サッカー × 心理学 後編』

前回の「サッカー×心理学」(2022年5月29日投稿)の記事にて、サッカー大国アルゼンチンにおける心理学を活用した選手育成環境について語ってくれたガブリエラ・ベアトリスさん。

アルゼンチンでは、6歳の年齢から心理学のセッションを受ける、という驚きの事情を話してくれました。

今回Vol.2では、心理学の観点から見たモチベーションの正体やその保ち方、困難の乗り越え方、について語ってくれます。

プレーヤーのあなたにはもちろん、指導者の方や保護者の方にも必見の内容となっています。

今回は、全2回にわたるインタビューの最終話になります。

生年月日:1969年10月5日
出身地:アルゼンチン
経歴(一部抜粋):1988-1993 ブエノスアイレス大学・心理学部/1994ブエノスアイレス大学大学院・スポーツ心理学科/1997-現在 プライベートカウンセリング(個人開業)/2005-2007 トリレニウム・スタディー・センター(スポーツジャーナリズムスクール)において1年生と2年生の心理学教授/2017-現在 クラブ・アトレチコ・ウラカン(アルゼンチン1部) /2019- 現在クラブ・アトレチコ・ヌエバ・シカゴ(アルゼンチン2部)

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–なぜアルゼンチンではこれほどまでに、スポーツにおける心理学が重要視されているのでしょうか?

メンタル面は、選手のプレーに大きく左右することがわかっているからです。

誰もが当たり前に”心”がありますが、自分の心について理解できている人はほとんどいません。そのために私たち心理学者が存在するのです。

サッカーの専門家である監督やコーチは、フィジカル的・技術的・戦術的に選手たちをサポートすることができます。しかし、必ずしも精神的に正しいサポートができるとは限りません。良かれと思ってしたことが、逆効果になってしまうこともあります。

そうならないためにも選手とコミュニケーションを図りながら、精神状態を見極め、問題があれば解決に尽力します。チーム内でベストなパフォーマンスが出るよう、精神面でサポートするのが心理学者の役割です。

選手から日々生み出される感情を理解し、その感情と手を取り合うためのセッションを行います。

心理学は、テーブルを支える4本の脚の一つです。肉体的、技術的、戦術的な要素に加え、”精神”という名の脚がなくては、テーブルはバランスを崩してしまいます。

今挙げた4つの要素がパフォーマンスの基本。テーブルのバランスがとれていれば、選手のパフォーマンスは格段に向上するのですよ。

–心理学的観点から「モチベーションの保ち方」を教えてください

モチベーションは精神の1構成要素であり、人としてのあり方や家族環境、生まれた国、友達や恋人との関係など、その人の人生を取り巻く環境によって左右されます。自分がどのような活動をするのか、を決定するものである、とも言えますね。

どのようなスポーツを選ぶのか、そのスポーツをする意図は何か、そのスポーツを続ける理由やパフォーマンスの仕方など、モチベーションは至る所に表現されます。

そして、モチベーションは人それぞれで違う、ということも頭に入れておかなくてはいけません。

アルゼンチンでのサッカーの意味や歴史は、日本やヨーロッパのそれとは全く違います。そうすると当然、数あるスポーツの中からサッカーを選ぶという行為の理由は、日本の少年やヨーロッパの少年とは違うということです。

中には、富や名声を得ることができ、金銭的に家族を助けるためにサッカーを選ぶ選手もいます。しかしその一方で、富や名声には心を動かされず、ただプレーしたい気持ちだけでサッカーを選ぶ選手もいます。理由はなんでも構わないのですが、プレーする理由を理解する必要があるのです。

もし、あなたが選手なら「何のために、自分はサッカーをしているのか」をよく考えてみてください。何が自分を動かすのか、サッカーをする上で何を達成したいのか、を自分なりに見つけてみましょう。

あなたがコーチや監督なら「格選手が練習に来る動機」を注意深く観察してください。

選手全員に対して同じように指導するのではなく、選手の特徴や個性によって関わり方を変えてみてください。

自分という人間を理解することが、モチベーションを保つ基礎となるのです。

–「自分を理解すること」がモチベーションの源となるのですね。自己の理解度を高めるためにどのような取り組みが有効ですか?

私がよく行うものを説明しますね。

まず紙を半分に分けます。折り目を境にして一方には自分の長所、もう一方には短所を書く、というエクササイズはシンプルで有効だと思います。

自分の長所や短所を紙に書くことは、慣れていない選手にとって難しいかもしれません。しかし、このエクササイズをすることで自分を客観的に見ることができ、自分という人間を理解していくことができるのでオススメです。

SNSでチャットのやり取りをするのもとても良いと思います。たとえば、グループチャットであるテーマに沿った議論をするなど。監督があるテーマについてグループチャットで質問し、それに対する自分の意見を監督個人に送ったりすれば、信頼関係も生まれます。

自分の考えを文章にまとめることで、思考力がつきますし、物事を人に伝える能力も向上します。後日、それぞれが何を主張しているのかをメンバーと共有しても面白いですし、あるいは試合後にミーティングをして「試合を見て、どう思ったのか」などの個人的な意見を個別にやり取りするのもかなり効果的ですよ。

–今は個人のモチベーションについて話していただきました。個人のモチベーションが行き過ぎるとチームとして機能しなくなってしまいそうです。個人のモチベーションとチームワークをうまく融合させる方法はありますか?

まず基礎となるのは、各選手が自分以外の選手の特徴を理解すること、です。

一人一人違う人間ですし、個人の特徴も違いますよね。個人個人が自分の考えるままにプレーしていたら、チームとして機能しません。

チームの中で自分の力を発揮するためには、チームメイトのことを理解しなくてはいけません。チームメイトや監督と、頻繁にコミュニケーションを取ってみましょう。

お互いを知るためには、コミュニケーションが欠かせないのです。

また、チームとして短期・中期・長期に渡る目標を決め、それにとり組むことも同じように重要です。

ここでいう目標とは、リーグで優勝することや、あるカテゴリーから次のカテゴリーに上がること、下のカテゴリーに落ちないなど、さまざまな状況を想定したものだと良いでしょう。チームの目標と、選手個人の目標をうまくリンクさせるよう取り組むのです。そうすることで、個人の目標がチームの目標とかけ離れないようにすることができます。

チーム全員や個別で話し合ったり、試合のビデオを見たり、全員で取り組むアクティビティをすることも効果的です。これらの活動により一人一人のモチベーションが高まり、チーム内に良い雰囲気を生み出すことができます。

–サッカーをしていれば、モチベーションに関係なく、良い時も悪い時も訪れますよね。困難が訪れた時や大きな障害があるとき、どのように克服すれば良いでしょう?

人生では、誰でも間違いを犯しますよ。間違えること自体は当たり前のことです。高いレベルでプレーするためには、なるべく早いうちに間違いを犯し、そこから学ばなくてはいけません。若い選手が給料をもらってプレーするためには、間違いを犯せる可能性を持たなければならないのです。間違いを問題視せず、解決すべき課題として捉えることが大切です。

個人単位で見ると、精神的に余裕がある選手がいたり精神力が強い選手がいたり、あるいは、精神的にもろい選手もいますよね。それらの選手を平等に扱うことはできません。繰り返すようですが、一人一人の選手に対して、異なったアプローチをしましょう。

心理的な課題を解決するには、日々の積み重ねが欠かせません。

大人になると脳が処理できるものがある程度決められてしまうため、小さい年代から自分と向き合い、毎日を振り返り続けることで、自分の精神について理解するベースを育むのです。

幼い頃から、あらゆる障害・操作・社会への対応力・生きる力への対応の仕方を学ぶことで、障害や困難を、学ぶためのチャンスとして考えられるようになります。

私が選手と接するときには、選手をコップに例えます。選手は空っぽにコップではなく、すでに半分水が入っているのです。そのコップを私のアイデアでいっぱいにするのではなく、すでに選手が持っている水に心理学からの視点を注ぎ、その選手オリジナルのドリンクを作るイメージでしょうか。

–最後に、日本でサッカーを頑張る若手選手たちにメッセージをお願いします

心の状態は、パフォーマンスと密接に関係しています。自分の心がどのような状態なのか観察してみることは、サッカー選手としてのキャリアを歩むだけではなく、人生を生きていく上で大きな助けとなります。

毎日、日記を少し書いてみるだけでも自分の心状態や、サッカーをプレーしている理由が見えてくるはずです。精神的に成長するためには、日々の取り組みが欠かせません。チームメイトやコーチたちと頻繁にコミュニケーションをとり、自分のパフォーマンスはもちろん、チームとして良い結果を出すためにアクションを起こして見てください。

End(お読みいただきありがとうございました。完 )

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