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東北風土マラソン&フェスティバル 発起人会代表 竹川 隆司 :インタビュー前編「故郷は“日本”。地元に根付くマラソン大会で復興を」

2014年に初開催という近年のマラソンブームの中では、後発のイベントにも関わらず、年々参加者を増やしているマラソン大会があります。その名は「東北風土マラソン&フェスティバル」(以下、東北風土マラソン)。
このイベントを立ち上げた、竹川隆司さんは野村證券を経て、アメリカで起業するというまさにエリート街道を歩んできた人物。その竹川さんが、東北の震災後、今までのキャリアを捨て、なぜ縁もゆかりもない東北でマラソン大会を立ち上げたのか?
今回は、全2回にわたりお送りするインタビューの前半です。

1977年神奈川県横須賀市生まれ。国際基督教大学卒業、ハーバードビジネススクールでMBA取得。野村證券にて国内・海外勤務等を経て、2011年にニューヨークでAsahi Net International, Inc.(朝日ネットの米国子会社)を設立。その後活動拠点を日本へ戻し、東北風土マラソン&フェスティバルを立ち上げる。現在zero to one代表取締役なども務める。

海外で気付いた自分の故郷

――野村證券時代にMBAを取得され、さらにアメリカで独立を果たすなど、エリート街道を歩んできた竹川さんが、東北風土マラソンという、東北復興を目的としたイベントを始めた理由を教えてください。

私の“故郷”である日本が大変なときに、自分にできることを何かしたいというのが、出発点です。

野村證券を出たあと、日本での起業を経て、ニューヨークで会社を設立したのが、2011年4月2日、東日本大震災の直後です。たまたま日本にいたときに東京で被災しましたが、すぐにアメリカに戻らねばならず、被害の状況や復興に向かう日本の様子をアメリカから見守ることしかできませんでした。
私はもともと東北には、ゆかりはなかったのですが、海外から見ると、東京も東北もなく「日本」なんですよね。アメリカで流れる被災地の衝撃的な映像を見て、みんなが心配してくれました。友人たちはもちろん、ホテルのコンシェルジュも、タクシーの運転手さんも、私が日本人だというだけで声をかけてくれました。そんなたくさんの暖かい声をいただく中で、私は、日本人として、自分の故郷である日本のために、自分にできることをやろうと心に決めました。

当初はニューヨークの会社を必死に立ち上げ、経営しながら、少しずつ企画や準備を進めていたのですが、「今、自分にしかできないこと」はこれだと思い、日本に帰ったのが、第1回目の東北風土マラソンを開催した2014年でした。

――できることを探してきた中で、どのようにして「マラソン&フェスティバル」に行きついたのですか?

東北の外から、東北に想いを寄せる人たちを集めたい、そのためにどうしたら良いかをまず考えました。食のイベントや、日本酒だけのイベントも考えましたが、すでに各地で行われているため目新しさもなく、東北の外からそのために行こうという動機づけとしては弱いかなと思いました。お祭りでそれを達成しようとしても、七夕まつりくらい有名になる必要があるため、今からそれを立ち上げるのも難しいですし、、そこで思いついたのが「マラソン&フェスティバル」でした。

自分自身も市民ランナーの一人としての視点から感じるのですが、面白いフルマラソンやハーフマラソンは、場所が遠くても行くんですよ。なので、数あるコンテンツの中でマラソンほど、外からの吸引力のあるリアルなものはないと実感しています。
また、せっかく人が来てくれるのであれば、何かを組み合わせて、東北の魅力を発信できるようにすると、東北の魅力と東北の外の人たちの気持ちをつなぐ手段として、いい場ができるのではないかという発想で「東北風土マラソン&フェスティバル」に行きつきました。

マラソン大会ではなくカルチャーを作る。メドックマラソンの日本版を

――東北風土マラソンは、ワインを飲んで走るマラソンとして有名な、フランスのメドックマラソンをモデルにされたということですが、メドックマラソンの魅力はどこですか?

メドックマラソンは、世界で一番のファンランです。ただ「ワインを飲むマラソン大会」以上に、やっぱり地域おこしイベントなんですよね。とにかくすごいのは、大会期間中のメドック地方の盛り上がりです。おじいちゃんも、おばあちゃんも、ペットの犬までも外に出てきて、老若男女問わず街が盛り上がります。そして、それを一緒に盛り上げているワイナリーの人たちや、地元の方々がたくさんいて、参加者としていくと、とにかく楽しいんです。

メドックマラソンは、3日間で構成されていて、1日目が前夜祭、2日目がフルマラソン、3日目がワイナリー巡りのツアーになっています。
1000人以上が集まる前夜祭から大盛り上がりで、マラソン当日も20箇所くらいの場所でワインがふるまわれ、食事もクロワッサン、生牡蠣にサイコロステーキと、フルコースのような構成になっています。また、仮装を奨励することにより、参加者の中で、タイムだけでなく楽しむことにコミットする雰囲気が作られるし、地元の子供たちにとっても面白い8000人の仮装行列です。そして、最終日のワイナリー巡りは、ウォーキングツアーとして楽しめるようになっていて、ランナーの方は家族や友達を連れてきやすい仕組みになっています。

――東北風土マラソンの構想において、特にメドックマラソンを参考にされた部分はどこですか?

メドックマラソン全体に根付いたカルチャーです。そのカルチャーを活かした上で、東北独自のイベントをやりたいと思いました。
私がメドックマラソンに初めて参加したときに、メドックマラソンの実行委員長に聞いたのですが、ランナーが8000人の大会に毎年2万5000人以上来るそうです。つまり、参加者1人に対して、2~3人ずつ連れてきているということです。
ただの「ワインを飲むマラソン大会」以上に、ランナー以外の人や地元の人も楽しめるというカルチャーごと、東北にもってくることが、東北を盛り上げていくひとつの手段なのではないかと、メドックの地元の人達が笑顔になっているのを見て思いました。

なので、第1回目から「マラソン&フェスティバル」として、前夜祭をやり、マラソンと同時開催で日本酒や地元の名産のお店を出し、大会前後には東北を回るツアーをやることで東北のことを知ってもらい、地元の人達との交流が生まれるようにしました。そういったランだけじゃない、みんなを巻き込んだ盛り上げを作るという考え方が、メドックマラソンから生まれました。

日本版メドックマラソンの思わぬ障害!?

――東北風土マラソンの形が出来上がるまでの裏話はありますか?

最初は、メドックマラソンでのワインのように、東北で日本酒を飲みながら走る大会を考えていたんですけど、簡単には関係者の理解が得られずに断念しました。「お酒を飲みながら走って大丈夫?」という心配を多くの方からいただき、「フランスでは大丈夫」だけでは説得は難しかったですし、何よりメドックマラソンのカルチャーを持って来たかったので、必ずしも日本酒にこだわり過ぎなくても良いかなと。
最終的に、日本酒についてはゴール後にいくらでも楽しめる環境を作ろうということになり、「東北日本酒フェスティバル」が誕生しました。エイドステーションで日本酒は出せないので、日本酒の仕込み水を出し、何よりフルコース以上に食の方を充実させることにしました。

――メドックマラソンと東北風土マラソンとの差別化ポイントは、どんな部分ですか?

食のバラエティーが東北風土マラソンは、圧倒的に多いです。また、老若男女や健常者、障がい者を問わず参加しやすいという部分にも特徴があります。
メドックマラソンは、基本的には大人が楽しむもので、家族で参加できるウォーキングツアーはありますが、子供は応援側です。一方私たちは、メイン会場でも子供のイベントをやっていますし、老若男女健常者障がい者問わず参加できるゆるスポーツもやっています。去年から、知的障がい者も参加できるランも作りました。そこは、メドックマラソンとの違い。私たちのイベントのほうが、より間口を広くしています。

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